出産秘話(?)の続き第三回です。
今までを読んでない方はコチラヘ。
夜半。
ねりこがおなかのハリを訴える。
陣痛の始まりだ。
今日昼間に打った陣痛促進剤は全く効果が無かったようで、
今頃になって自然に陣痛が始まったのだ。
しばらくは余裕の陣痛だったが、
23時をまわるころから痛みが強くなってきたようだ。
子宮口は既に開いており、いきめばすぐにでも生まれそうな気配である。
やがて陣痛室から分娩室に移動し、処置の準備が始まった。
看護師「立会いですね。」
オイラ「はい。」
分娩室からは既に医者の声とねりこの声が聞こえてくる。
医者「まだいきんじゃダメ!」
ねりこ「ひーーーー」
医者「旦那さん呼んで!すぐ生まれるよ。」
看護師「旦那さん、靴を履き替えて、そこの白衣を着て、手を洗って入ってきてください。」
来た。
この時が。
前回、つまり上の娘の出産の時。
完全に負けた白衣との勝負。
上の娘の時は折りしも新月に重なり、出産ラッシュ。
忙しそうに働く看護師とオイラとのやり取り。
「そこの白衣を着て、前のボタンを閉めてから入ってきてください。」
「・・・しまりません!」
「・・あぁ!もう!じゃあいいわ!!」
そんなやり取りが交わされたのである。
前回の看護師の諦め顔が頭をよぎる。
そこで、今回は先制攻撃をかける。
オイラ「僕のサイズでも入りますかねぇ。」
一瞬、全身を観察された後、
看護師「大丈夫・・・ですよ。」
間があったぞ、間が。
オイラ「前回、入らなかったんですよ。」
看護師「そうなんですか。今度は大丈夫だと思いますよ。」
・・・なんでオイラはこんな事カミングアウトしてんだろ、
なんて思いつつ、看護師さんに手伝ってもらいながら白衣を着る。
看護師とオイラがシンクロした。
オイラ・看護師「きついですね。」
だから言ったのに・・・。
またまた敗北だよ・・・。
看護師「じゃ、急いでこっち着て下さい。」
医者「急いで~。もう出てきてるよ~。」
おいおい、またギリギリだよ。
結局、割烹着タイプの白衣を渡される。
なんと、それにはボタンが無いのだ。
ボタンの心配のないものを渡され、何の憂いも無く着替えたのだが、
実は背後でこの時涙ぐましい戦いが行われていたようだ。
割烹着の背中はどうなっているか。
そう。紐。
どうやら看護師はこの紐を結ぶのにかなりの苦労をしていたようなのだ。
もちろん、背後の事なので見えるわけが無い。
しかし、言葉と手つきと胴回りにかかる引っ張られ感がそれを確信させる。
看護師「ちょっと・・・これは・・・動かないで・・・こうして、これで何となく・・・とまってる風に・・・ハイ、ヨシ!」
「何となく」とか「とまってる風」とかって・・・
・・・・・看護師さんゴメン_| ̄|○
分娩室に入った時には既に佳境に入っていた。
医者「はい、すぐ生まれるよ~。」
ねりこ「はい~~~~!!!」
ここまで来ると立ち会っているダンナとして出来る事は、
ねりこを励ます事だけである。
ねりこの頭の方に立ち、優しく顔をなでて、元気づける。
オイラ「あと少しだ。大丈夫。もう少しだよ。」
ねりこ「う~~~~イタイ!クサイ!キモチワルイ!!!」
そうなのだ。
お昼の味噌ラーメンは体内で熟成を重ね、
今最高潮に芳醇なニンニク臭を放っていたのだ。
ねりこの一言で声をかけるのを自粛。
ただただ優しく顔をなでるだけ。
しかし、立会いの場所は横たわるねりこの頭上。
そこで顔をなでるという事は、
ねりこの顔の上にオイラの顔があるという位置関係になるわけで、
それは結果として、オイラの鼻息がダウンバーストの如くねりこの顔面に、
熟成ニンニク臭パックを施すのだ。
分娩の痛みの最中、「クサイ!」と漏らすねりこ。
これにより声かけだけでなく、
場所もねりこからやや引き気味の場所に移動するという自粛を行うオイラ。
出産の喜びの日に、
事情を知らなければまるで夫婦危機にもとられかけないオイラとねりこ。
もっとも、陣痛室の段階からニンニク臭を漂わせていたオイラであるから、
医者も看護師も助産師もみんなどうしてなのかわかっていたとは思うのだが。
オイラが分娩室に入って10分ほどで出産。
息子は元気な産声をあげた。
新たな生命の誕生はなんにしても素晴らしい事。
子供を産む、産まない、産める、産めないなど、
色々な難しさはあるとは思う。
しかしながら、一つの命がそこに誕生した事は事実であり、
親としては嬉しい事に他ならない。
自分の命だけでなく、他者の命も尊重できる、
そういった人間が増えていけばいいなぁと再確認した瞬間だった。
生まれてきた赤ちゃんは今まで守ってくれていた母の胎内から出て、
無防備で外界に接したわけである。
最初に受けた刺激は、
恐らく・・・ニンニク臭であることは想像に難くない・・・。
以上、出産秘話でした。